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ももさへづり*やまと編*cent chants d'une chouette (Yamato*Japon)

もぢずり、あしずり(Don Juan stamping his feet) 

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大阪城の梅「日光」(2月撮影)
plum flowers called "Sunshine" (in February)


 平安のドン・ファン(プレイボーイ)、在原業平(825-880)のお能を観ました。舞台は桜咲く京の都です。観能の日は二月下旬、浪花の梅を見た後で…
 このお能には22首もの和歌が引かれています。たとえば『伊勢物語』序段から ―

春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知らずも 在原業平
陸奥の忍ぶもぢずり誰ゆえに乱れんと思ふわれならなくに 源融


「もぢずり」とは、忍草の汁を模様のある石の上にかぶせた布に擦りつけて染める方法です。業平も融も、もぢずりの乱れ模様を恋心の乱れにたとえています。
 

Snowdrop saw a Noh play whose hero is Don Juan in the Heian period, Ariwara-no-Narihira (825-880). The play is set in Kyoto in a cherry blossom season, and she visited the plum garden in Osaka Castle before the play. This program cites 22 waka including Narihira's.


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 若き日の業平は藤原の姫をさらいました。深窓の姫は恋人の背中から、生まれて初めて見た露をいぶかしみ「あれは何」と尋ねます(同五段)。むつまじい時も束の間、姫は連れ戻され、二条后となります(同七段)。
 能「小塩」では、事件の17年後に二人が再会し、業平が昔の恋をほのめかす歌を詠みます(同七十六段)。后となられた貴女様も、神代の昔ならぬ我らの昔の恋を思い出していることでしょう、と…

Young Narihira once eloped with Fujiwara-no-Takaiko (The Tales of Ise, Ch.5). The closeted maiden saw the dews for the first time and asked from her lovers back, What are they? Ther sweet moment was only momentary and she soon was taken back to the house and married the Crown Prince (later Emperor Seiwa) to be Empress Nijo (Ch.7). They met again after 17 years and Narihira composed waka implying their old love (Ch.76).



大原や小塩の山も今日こそは神代のことも思ひいづらめ 業平



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「鴬宿」に宿りする蜜蜂


 『伊勢物語』第六段には、姫が鬼に食われてしまったという記述があります。これは姫を失った業平の悲しみを象徴している、と物語のなかで説明されています。
 「足ずりをして泣けどもかひなし」― 業平の悲しみは深かったのですね。平安の貴公子が足ずりするところを想像してみてください!

 「足ずり」は『平家物語』にも出てきます。鬼界が島に取り残された俊寛は…
 「(…)渚に上り、倒れ伏し、をさなき者の乳母や母などを慕ふやうに、足ずりをして、これ乗せて行け、具して行け、と(…)おめき叫び給へども、漕ぎゆく舟のならひにて、跡は白波ばかりなり

 お能では業平も俊寛も足ずりしたりしませんが…。
(文楽「俊寛」では、足ずりを示す演出が見られます。俊寛や千鳥の人形には、文楽人形には通常無い足がついています。)


Takaiko was eaten by an ogre, which symblises Narihira’s sense of loss (Ch. 6). He, a young nobleman in the Heian period, cried stamping his feet in vain! Do you remember Shunkan? He also stamped his feet when he was left in Kikai Island (The Tale of the Heike). Of course, in the Noh play, neither Narihira nor Shunkan behave like that.

「もじずり」の画像検索結果

もぢずり(捩摺)(捩花,ねぢばな)という草もあります
lady’s tresses(pinterest)


 冒頭の二つの歌に帰りましょう。世阿弥の娘婿、金春禅竹は二つの歌をこんなふうにつなげました。

春日野の、若紫の摺衣、しのぶの乱れ、限り知らずもと詠ぜしに、陸奥の、忍ぶもぢずり誰ゆへ、乱れんと思ふ、我ならにくにと、読しも紫の、色の染み香に愛でしなり、(…)」(謡曲「小塩」)
 シテはここで袖を返します。(お能の写真がなくて済みません) 


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平成の「昔男」、野村萬斎


「忘れめや今も名は、昔男ぞと人もいふ。昔かな
 ここで舞扇がひらかれ、序の舞となります。そして再び…
昔かな。花も所も、月も春 有し御幸を 花も忘れじ 春も忘れぬ。」
 昔と今と、夢と現と、記憶と忘却と…すべてが花吹雪のなかに霞み、ただ曙の月のみが残っているのでした。

 Narihira dances turning his sleeves while missing the old love. The past and the present, the dream and the reality, the memory and the oblivion, all were misted in the shower of petals and only the moon was left.



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「月の桂」*Plum called "Katsura tree in the Moon"


月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして 業平



 能「小塩」には、梅の季節の歌も引かれています(『伊勢物語』第四段)。月も春もすべてが変わってしまって、自分だけがのまま…愛する人を失った今、月も春もすっかり色あせて見える。愛する人は遠くへ去り、自分だけがのままの恋心を抱いて立ち尽くしているのだ…
 自分だけ? ― いいえ、きっと梅の香りものままだったことでしょう。


The program cites a waka composed in plum season also (The Tales of Ise Ch. 4) :While the moon is not what it was and spring is not what it was, only I am still what I was
… Only I?― No, the fragrance of plum flowers also should have been what it had been.


 

射干玉(ぬばたま)の闇に消えにし とほき恋 梅の香のみぞ知る昔かなsnowdrop



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玉のような莟(「緑萼」)


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by snowdrop-nara | 2018-03-20 18:20 | | Comments(4)
Commented by 1go1ex at 2018-03-24 10:52
「小塩」をご覧になったんですね!
シテは観世清和さんでしたか?
能で「袖を返す」という型にはどんな意味があるのでしょうか。
教えてください。
型の意味がわかれば、能をより深く味わうことができますよね。

昨日、うちの師匠が出演なさった狂言風オペラ「フィガロの結婚」を見てきました。
期待以上に面白く、見事でした。
後日、ブログに書くつもりです。日にちが経ってしまうかもしれませんが。。。
Commented by snowdrop-nara at 2018-03-25 18:50
*1go1exさん
はい、観世清和さんがシテでした。
お能の型についてきちんと勉強したことはないので、お教えすることはできないのですが
自分なりに気づいたことを書いてみますね。

お能では感情が高まった時や、重要な詞が発せられた瞬間に袖を返すことが多いようです。
いっぽう、奈良時代に袖を振るのは、魂を呼び寄せる、魂を鎮める、あるいは親しい人に思いを伝える仕草でした。
「振る袖」と「返す袖」にはつながりがあると思います。

私も別の日に同じフィガロを見ました!狂言の好きな友人と…♪
その友人が、能の型の感情表現の豊かさに驚いていました。
能面の角度やわずかな手の仕草で悲しみを表せるんだなあと。

そういえば、文楽人形の泣き方と、能のシテ方の泣き方の違いを
むかし母の前で実演してみたら
能の型の方が深~い悲しみが伝わってくる、と言われましたっけ。

フィガロについて、忘れないうちにと下書きだけしましたが、私も公開は先になりそうです。
1go1exさんの記事、楽しみにしています。
Commented by desire_san at 2018-03-31 13:54 x
こんにちは。
在原業平は、平安時代初期の優れた歌人として知られていますが、『伊勢物語』の主人公のモデルといわれ、『伊勢物語』の高貴な女性たちとの禁忌の恋物語は、業平に関する物語のように思われてきたようですね。 一方で物事に囚われず自由奔放、放縦不拘な人に描写され、高尊の生まれでありながら反体制的な貴公子であったという話もあり、魅力ある人物だったのではないかと個人的には思っています。

Commented by snowdrop-nara at 2018-03-31 20:50
*desireさんの在原業平観、興味深く拝読し、最新の記事(うぐひすの涙…)の末尾に反映させて頂きました。desireさんならではのコメントをありがとうございます。皇孫ながら政治権力の中枢から外れ、鬱屈した思いが華麗な恋歌に結びついたと考えると、藤原の姫との恋も、反逆心のあらわれと見えなくもありません。じつは業平に限らず、革新的な歌人は、時流から外れた所にいることが多いのです。古今集の紀貫之も決してエリート貴族ではありませんでした。和歌はみやびの仮面の下に男(おのこ)の世界を隠しているのですね。高子姫も業平のワルな魅力に惹かれたのかもしれません。


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