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ももさへづり*やまと編*cent chants d'une chouette (Yamato*Japon)

酒と菊の日々(The Days of Wine and Chrysanthemums)


フランスに住む俳人、小津夜景さんの漢詩の本の予約受付が始まりました。
リッチリンクをクリックすると、試し読みもできます。↑
snowdropのお気に入りは…おっと、ネタバレになってしまいますね!
それでは、本棚にある2年前の御本から紹介しましょう。
どの漢詩にしましょうか。よく知られた詩がいいですね。
予約開始日の9月9日(一昨日)にちなんで、重陽の菊の漢詩に決まり!
以下に引くのは、旧著からですよ~!念のため。

A new book written by a writer (haiku-poet) living in France,
YAKEI OZU appears soon.
The publisher is accepting reservations (with trial reading). ↑
Snowdrop' s favorites are … oh, spoiler alert!
The below citation is from her another book
that was published in 2017, three years ago.
The chapter's title is "Days of Wine and Chrysanthemums".
Fashionaaaable!
The Chrysanthemum Festival was held in September 9th.


酒と菊の日々(The Days of Wine and Chrysanthemums)_a0332314_18454634.jpg

(1990年代)


小津夜景さんの『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(2018年)には

陶淵明の菊の漢詩が出てきます。

章題は「酒と菊の日々」

…The Days of Wine and Chrysanthemums…

なんてお洒落なタイトル!

あの有名な漢詩が、夜景さんの手にかかると

やわらかく、端整な詩に生まれ変わります。





飲酒二十首其七 陶淵明

  秋菊有佳色  

衷露採其英

汎此忘憂物

一觴雖獨進

杯盡壺自傾

日入群動息

帰鳥趨林鳴

嘯傲東軒下

聊復得此生


秋の菊が美しい

しっとりと露に濡れたその花びらをつみとり

憂いを忘れさせるこの霊水に泛かべて

わたしは俗世から一歩 また一歩と遠ざかってゆく

ひとり盃でじっくりと

ほしいままに唇をうるおしていると

ついにうつわはからっぽとなり

気がつけば酒壺が転がっている

日は暮れ さまざまのいとなみがそのうごきを止め

ねぐらに帰る鳥たちが林をめざして啼いている

わたしは東の軒下で

ああ と声を漏らしてくつろぎながら

今日もまた一日を

惜しみなく味わったことに心から満足する


(陶淵明「酒を飲む二十首 その七」)

― 小津夜景『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(2018年)


Chrysanthemum flowers are beautiful

I pick the dewy petals

And float them on the wine called sans-souci

To cloister from the world more deeply

Alone I sip at my wine

To the end the cup is empty

And the jar falls down by itself

The sun sets, all the movements stop

And the birds chirping go to roost in forests

I also whistle freely under the eastern eaves

Today also I have lived safe and sound


(Drinking Wine IIV by Tao Yuan Ming)

(tr. by snowdrop, 2015)


酒と菊の日々(The Days of Wine and Chrysanthemums)_a0332314_18320776.jpg
(2015年)

夜景さんの訳した漢詩は何てまろやかなのでしょう。

語彙が厳選され、表現が磨き抜かれているのですね。

お酒をうたうときによく出てくる「ちびちび」だの

酒壺の転がる「ごろん」といったオヤジ言葉がない!

「嘯」という漢字も

「口笛を吹く」とするとチョイ悪な感じだけれど、

「ああ と声を漏らす」なら溜め息になります。

うるわしの乙女語訳漢詩?

でも、決して甘さに流されはしない。

そんなハイセンスな小津さんの世界はどこから?

漢詩に続くエッセイを読んでみると…



清子の返信メイル*平成枕草子3(réponse de Seiko) : ももさえずり*紀行編*cent chants de chouette


snowdropも愛した『マリクレール(Marie Claire)』(2018年撮影)



「世間の人びとは、いったいどんなきっかけで漢詩を読むようになるのだろうか。(…)わたしの場合は、『マリクレールメゾン』をはじめとしたインテリア・エクステリア・建築系の雑誌を手当たりしだい読んでいるうちにオーバードーズで写真あたりを起こすようになってしまい、どこかに写真のついていない、素敵な住まいについて書かれた文章はないかしらと思っていたところへ、たまたま王維の『輞川集(もうせんしゅう)』を発見したことだった」(「酒と菊の日々」)


輞川集(もうせんしゅう)』は王維と友人の裴迪(はいてき)がやり取りした漢詩連作です。王維は長安郊外に輞川荘という山荘を構えていました。絵や音曲もよくした詩人の趣味の良さに、小津さんは恋してしまったのでした。

その王維がお手本にしていたのが、先に引いた酒と菊の詩人、陶淵明です。けっこう渋い、ちょい悪イケメン?↓


Ozu Yakei used to love the interior/exterior design magazines such as Marie Claire. After having seen lots of magazines, she began to look for some texts without photos on charming dwellings , to find the villa of a Chinese poet, Wang Wei (who adored Tao Yuanming).


酒と菊の日々(The Days of Wine and Chrysanthemums)_c0345705_21525881.jpg
陶淵明賞菊図 伝周文筆 (部分) 『花』東京国立博物館 

Tao Yuanming admiring chrysanthemum flowers(detail)Attributed to Shubun (15c.)



菊といふ単語のつづりを忘れると必ずおもふ利口なアンを

Whenever I forget
spelling of chrysanthEmum,
I remember
Anne of Green Gables,
an intelligent girl


酒と菊の日々(The Days of Wine and Chrysanthemums)_c0345705_14195114.jpg
snowdropの友の手製のアン人形とコサージュ(2017年)
Anne-doll made by my friend and Anne of Green Gables(Japanese)


「たこぶね、なつき、もも」(「ももさえずり*紀行編」)へ続きます。


(All Rights Reserved)







by snowdrop-nara | 2020-09-11 19:01 | | Comments(3)
Commented by desire_san at 2020-09-14 11:17
いつも、古今東西の文学から美術の世界に渡るお話を楽しませていただいています。

陶淵明は、今の日本でいえば権力と利権がうごめく魑魅魍魎の世界とかした官界と訣別し、「飲酒二十首」は、貧しくはあっても飲酒を楽しむ閑居の生活に入る決意を、自己にうながし、いいきかせといるように感じます。
揺れと葛藤と闘いながらも、農耕生活と飲酒・琴・読書・家族愛・田園の風景など人として生きる喜びと味わい漢詩を三―読み続ける精神は、孔子の哲学や良寛の生き方に通ずるものを感じます。

Commented by snowdrop-nara at 2020-09-15 07:36
*desireさん
教養深い紳士のご来訪、光栄です。
官界から田園へ…
村暮らししか知らない私には想像もつかないダイナミックな決断だったのでしょうね。

陶淵明から良寛へ!
いま、良寛の歌集を読んでいるのですよ。
イギリスの歌人が子供の時から良寛を愛していて
五合庵への旅を夢見ながら、かなわずにいるのです。
芸術の世界は海を越えて人の心を結びつけますね。

ナショナル・ギャラリー展が開幕しましたね。
私は東京も大阪も行けないと思いますが、
ロンドンで見たフェルメールの記憶を
「紀行編」の記事にまとめているところです。
来週から連載しますので、お時間の許す時にご笑覧ください。
Commented at 2023-04-11 14:35
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